法然上人 一刀十念御自作座像(西福寺御影堂御本尊)
【令和6年7月】
「父母恩重經に」
父に慈恩あり、母に悲恩あり、そのゆえは、人の此の世に生まるるは、宿業を因として、父母を縁とせり。父にあらざれば生ぜず。母にあらざれば育せず。・・・云々。父母に十種の恩徳あり。
① 懐胎守護の恩
悲母、子を胎めば、十月の間に血を分け肉を頒ちて、身、重病を感ず。子の身体之に由りて成就す。
② 臨生(産)受苦の恩
月満ち時到れば、業風催促して、徧身痘痛し、骨節解体して、心身悩乱し、忽念として身を亡ぼす。
③ 生子忘憂の恩
若しそれ平安になれば、猶ほ蘇生し来るが如く、子の声を発するを聞けば、己も生まれ出てたるが如し。
④ 乳哺養育の恩
其の初めて生みし時には、母の顔花の如くなりしに、子を養ふこと数年なれば、容すなはち憔悴す。
⑤ 廻乾就湿の恩
水の如き霜の夜にも、氷の如き雪の暁にも、乾ける処に子を廻し、湿へる処に己れ臥す。
⑥ 洗潅不浄の恩
子己が懐に屎まり、或いは其の衣に屎をするも、手自ら洗い潅ぎて、臭穢を厭ふこと無し。
⑦ 嚥苦吐甘の恩
食味を口に含みて、これを子に哺むるにあたりては、苦き物は自らが嚥み、甘き物を吐きて与ふ。
⑧ 為造悪業の恩
若しそれ子の為に、やむを得ざる事あれば自ら悪業を造りて悪趣に堕つることを甘んず。
⑨ 遠行憶念の恩
若し子遠く行けば、帰りて其の面を見るまで、出ても入りても之を憶ひ、寝ても寤めても之を憂ふ。
⑩ 究竟憐愍の恩
己れ生ある間は、子の身に代わらんことを念ひ、己れ死に去りて後には、子の身を護らんことを願う。
父母の恩重きこと天の極まり無きが如し。是の如きの恩徳如何にして報ずべき。法然上人は『ただ一向に念佛すべし』とお勧めです。
2024年7月1日
二橋 信玄 (大原山西福寺 第51世)